メインコンテンツへスキップ

プロップファーム会社設立を考えてみた

公開:

チャレンジだけの会社と、ライブ資金を出す会社は、別の商売だ。
売っているのは評価。潰れるのは出金と相関リスクだ。

設立ガイドを横断して見えた骨格
  1. モデル

    評価 / Instant / ハイブリッド

    入口はチャレンジ料。Instant は速いが業者リスクが上がる。規模が出ると両方を並べる。

  2. 収支

    前倒しの収入、後倒しの支出

    チャレンジ料は先に入る。Funded の出金は後から膨らむ。スプレッド収益がないと、合格が増えるほど苦しくなる。

  3. 資本

    ガイドによって桁が違う

    立ち上げ 5 万ドルから、準備金 50〜100 万ドル、英国型なら 100 万ポンド。話している商売が違う。

  4. 技術

    ダッシュボードはインフラではない

    プラットフォーム、CRM、評価エンジン、KYC、決済。ライブ資金なら LP とブリッジと、口座グループの分離まで。

  5. 規制

    シミュは軽く、ライブはブローカー

    チャレンジ専用は「評価サービス」扱いが多い。実資金を LP に流すと、免許の話になる。

  6. 日本

    市場はまだ浅い

    海外は消耗戦。日本語・円・サポートの空白は残る。チャンスはあるかもしれない。急所は同じ。出金とリスク。

私はプロップファームの設立者ではない。チャレンジ側を回している人間だ。試験はおおよそ 100 本、ファームは 20 社近く。その立場から、「自分で会社を作ったらどうなるか」を一度、机の上で考えてみた。

材料は、業者向けの設立ガイドだ。 SpotwareAxceraallFX-Consult、TradeLocker の The Prop Firm Launch BlueprintSpencer Logic。いずれも 2025〜2026 年の文書で、いずれも自社のプラットフォームかコンサルを売っている。数字は宣伝込みだと思って読む。それでも、横断すると「どこが商売の急所か」は揃ってくる。

これは法律・税務・投資の助言ではない。日本で法人を作るなら、別途専門家が要る。ここでは、ガイドが何を前提にしていて、トレーダーから見てどこが本音かを整理する。

同じ「プロップ」でも、商売が二つある

ガイドを並べて最初に分かれるのがここだ。Spencer Logic が一番はっきり書いている。

同じ看板、二つの商売 チャレンジ専用 シミュで評価を売る 実資金は動かない 収入=試験料 規制の足跡は軽い、が建前 ライブ Funded 実資金を LP へ流す 実態はブローカーに近い 出金・在庫・免許 インフラが先に要る
同じ「プロップ」でも、シミュ評価とライブ資金は別の商売。混ぜた広告が先に壊れる。

チャレンジ専用は、トレーダーがシミュ口座でルールを守って目標を取る評価サービスだ。実資金は動かない。収入は試験料が主で、規制の足跡も軽い、というのが業界の建前だ。

ライブ Fundedは、合格者に実資金を割り当て、注文を LP へ流す。ここまで来ると、運用の実態はブローカーに近い。口座グループ、執行、在庫リスク、免許の話が出てくる。

いま市場に出ている CFD プロップの大半は、前者を売り、後者の言葉で広告している。トレーダー側から見ると「合格したら資金をもらう」。業者側の帳簿では「合格者の出金を、不合格者の試験料で払う」ことが多い。2023〜2024 年に潰れた会社の多くは、このズレをスケールさせた結果だった。当時の話は なぜこのサイトを始めたか に書いた。

ハイブリッドは、入口はシミュ、出口だけ実口座、という形で両方を持つ。Spotware は評価型・Instant・月額サブスクの組み合わせを「2026 年の標準」として推している。allFX-Consult は、伝統的な社内デスク(自社資金でトレーダーを雇う)と、チャレンジ型を最初から分けろと言っている。混ぜたまま設計すると、技術も契約もコンプライアンスも全部ずれる。

Instant Funding は、試験を飛ばしてすぐ口座を渡す。獲得は速い。そのぶん、質の低いフローと業者側リスクが先に来る。ガイド側も、入口の主軸は評価型、Instant は併売、という書き方に揃っている。

収支は、合格が増えると苦しくなる

Spencer Logic の試算が、一番わかりやすい。中規模でチャレンジ 2,000 口座、平均 $150 なら、月の試験料は約 $300,000。合格率 15%、Funded 300 人が月平均 $2,000 利益、70/30 なら、出金義務は月約 $420,000。試験料より出金のほうが大きくなる。

Spencer Logic の中規模仮定(構造を見るための数字) 試験料 $300k / 月 2,000 口座 × $150 出金 $420k / 月 Funded 300 × $2,000 × 70% 交差する スプレッドが残るか、出金を抑えるか。後者は出し渋りに見える。
試験料は先、出金は後。合格が増えるほど、チャレンジ料だけでは足りなくなる。

数字そのものは仮定だ。それでも構造は正しい。収入は前倒し、支出は後倒し。合格と出金が増えるほど、チャレンジ料だけでは足りなくなる。持続するには、Funded 側でスプレッドや執行差が残るか、合格・出金を低く抑えるか、どちらかだ。後者はトレーダーから見れば「出し渋り」に見える。前者は、ライブ執行のインフラが先に要る。

2026 年の現状メモ で書いた通り、業界全体では合格と出金到達は別物だ。設立側のガイドは「4〜8 か月でローンチ費用を回収」と書く。トレーダー側の経験では、その回収原資の大半は、落ちた人の試験料だ。

allFX-Consult に載っている Justin D. Hertzberg のコメントが、ガイドのなかで一番現場に近い。「これはもう技術の話ではない。リスクの商売だ。立ち上げに $500K〜$1M の準備金を見ろ。スケールするほど、テールリスク用の内部留保を厚くしろ。キャッシュフロー商売だと思うと詰む」。

チャレンジ料が入るたびに儲かっている気分になる。出金と相関ポジションが、あとに来る。

必要な資金——ガイドごとに桁が違う

同じ「設立コスト」でも、前提が違う。

ガイドが言っている金額(前提が違う) 箱の配線 $5k–$200k TradeLocker / Spotware ホワイトラベル SaaS 立ち上げ ライブ割当 $250k–$1M Spencer Logic 資金+ LP 最低口 実資金を出す 準備金・認可 $500k–£1M Hertzberg / Axcera テールと英国型 リスク事業の下限
桁が揃わないのは雑だからではない。話している商売が違う。
出典 言っている金額 前提
Spotware 立ち上げ $50,000〜$200,000 ホワイトラベル中心。運転資金 $20,000〜$100,000+
TradeLocker Blueprint 初期 $5,000〜$25,000 + 月額 $7,000〜$40,000 CRM・プラットフォーム・広告のランニング
Spencer Logic チャレンジ専用 $30,000〜$100,000 / ライブ $250,000〜$1,000,000 ライブは割当資金と LP の最低口
allFX-Consult(Hertzberg) 準備金 $500,000〜$1,000,000 「想定より遅い立ち上げ」と出金ショック
Axcera 最低 100 万ポンド前後 英国の自己勘定・認可の話が混ざる

Spotware の内訳は、プラットフォーム初期 $8,000〜$25,000、月額テック $3,000〜$8,000、流動性 $5,000〜$50,000+、法務 $3,000〜$10,000、マーケ $5,000〜$15,000。TradeLocker 側は CRM 月 $2,000〜$15,000、プラットフォーム月 $5,000〜$20,000+、流動性・ブリッジは別建て、法務 $2,000〜$20,000+、マーケ月 $2,000〜$20,000。カード決済は 4〜9%、暗号資産は 0.4〜1.5% 前後、という手数料感も Blueprint にある。

桁が揃わないのは、雑だからではない。チャレンジ専用の SaaS 立ち上げと、実資金を抱えるリスク事業と、英国で自己勘定をやる伝統プロップを、同じ「prop firm」という言葉で売っているからだ。Axcera の「FCA の認可が先、自己勘定なら £750,000」は、いま流通している CFD チャレンジ業者の話としてはズレている。同じ会社の別記事ではチャレンジ CRM を売っている。読む側がモデルを切り分けないと、資本計画が壊れる。

日本から見るなら、さらに為替・法人設立・決済・税が乗る。ガイドの下限で「今週立ち上げ」は、営業トークだ。

技術——ダッシュボードをインフラと呼ぶな

Spencer Logic の言い方が正確だ。多くのベンダーはダッシュボードを売って、それをインフラと呼ぶ。ダッシュボードはルール表示とトレーダー向け UI だ。執行ルーティング、LP 接続、リスクブックの分離、複数口座の建玉集約は、別レイヤーだ。

ベンダーが売る層と、実際に要る層 ダッシュボード / CRM / ポータル ここを「インフラ」と呼ぶ会社が多い 評価エンジン · KYC · 決済 日次 DD · 自動失格 · 出金審査 —— チャレンジ専用の商品 口座グループ · LP / ブリッジ · 建玉集約 ライブ Funded で初めて必要。ここが無いと在庫の行き場がない
ダッシュボードは UI。商品は評価エンジンと、ライブなら LP と建玉の分離。

横断すると、買い物リストはこうなる。

部品 何をするか チャレンジ専用 ライブ Funded
取引プラットフォーム MT4 / MT5 / cTrader / TradeLocker など シミュで足りる 口座グループを分け、Funded だけ外部へ
CRM / ポータル 口座・統計・チケット・アップグレード 必須 必須
評価エンジン 日次 DD、総合 DD、自動失格・自動昇格 必須。ここが商品 必須。加えてブック全体の建玉
KYC / 決済 Sumsub 等、カードと暗号資産 購入と返金 出金審査と直結
LP / ブリッジ 価格と約定 なくても回る ないと在庫の行き場がない
価格エンジン 全グループへ同じティック 苦情防止 必須に近い

Spotware は cTrader Admin、Axcera は自社 CRM、TradeLocker は自社プラットフォームとパートナー CRM、Spencer Logic はホワイトラベル一式、という売り方だ。allFX-Consult はグレーラベル(ブローカーの箱にブランドを載せる)を、インフルエンサーや少人数チーム向けの近道として出している。速い。その代わり、約定・スキャル制限・相手の評判を丸ごと借りることになる。

チームは、Spotware だと最初は 3〜5 人——創業者、プロダクト、リスク、サポート、テック連携。規模が出てからマーケ、開発、コンプライアンス、トップトレーダー担当。Axcera の別記事は、1,000 口座あたりで手作業が死ぬ、自動化が競争力、とも書いている。チャレンジ側を多数回している身から見ても、ルール判定と出金を人手でやっている会社は、遅かれ早かれ崩れる。

「5 週間でローンチ」は、箱を並べる話だ

TradeLocker の Blueprint は 5 週間、Spotware は 6 週間、ホワイトラベルなら 1 週間、自前なら 2〜4 か月。Spencer Logic はチャレンジ専用 4〜6 週間、ライブまで 10〜16 週間。

中身を見ると、週 1 はモデルと法人とベンダー選定、週 2 は CRM とプラットフォーム接続、週 3 は決済と KYC、週 4 は本番切替、週 5 は 20〜50 人のソフトローンチ、という「箱の配線」だ。評判、出金の実運転、相関する Funded ブック、広告規制、決済業者に切られないこと——商売側の時間は入っていない。

allFX-Consult の早期ベストプラクティスは地味だ。システムをストレステストしろ。チャレンジ設計を最初の数か月で削れ。サポートを雑にするな。ルールを頻繁に変えるな。KYC を甘くするな。準備金を過小評価するな。トレーダーから見て「この業者は危ない」になるパターンと、ほぼ同じリストだ。見分け方は 要注意 Prop Firm の見分け方 に寄せてある。

Spotware は「顧客資金を預かっていないので、多くの法域で免許は不要。内部資本の割当だ」と書く。Spencer Logic はチャレンジ専用を評価サービス、ライブをプリンシパル取引として分け、SVG やバヌアツなどのオフショアと、規制法人を組み合わせる話まで出す。Axcera だけが「FCA の認可が先」と、英国の伝統プロップ寄りの一文を置いている。

実務の分岐は単純だ。シミュだけで完結するなら、金融商品の販売というより、試験の販売に寄せて設計する会社が多い。実資金を LP に流すなら、ブローカーに近い免許と、口座グループの分離が要る。ハイブリッドは、評価会社とライセンス法人を分ける、というのがガイド側の常套句だ。

日本居住のトレーダーを取る、日本で法人を置く、広告を出す——この三つは、海外ガイドの「免許不要」では済まない。ここでは踏み込まない。必要なのは、「チャレンジ専用だから何でも許される」がガイドの営業文だ、と知っておくことだ。契約書のセットはどの資料も同じで、利用規約、返金、リスク開示、出金ポリシー、プライバシー、AML / KYC。Blueprint は「ローンチ週まで法務を残すな。決済業者に止められる」と書いている。

失敗パターンは、トレーダーが見ているものと一致する

TradeLocker の「よくある失敗」と、allFX-Consult の「Prop を Pop させるな」は、表現が違うだけだ。

  • リスクエンジンが本物でない。スプレッドシートで DD を見ている時点で、商品が無い。
  • 遅いプラットフォーム。検証中のラグは、本番で返金になる。
  • コンプライアンス後回し。
  • 使わないツールへの過払い。
  • オンボーディングと出金フローが不明瞭。
  • 自動化なしでスケールする。
  • アフィリエイトがルールと違うことを言う。

Spencer Logic が足しているのが、Funded 側の急所だ。同じ試験を通った 300 人は、独立した 300 口座ではない。ニュースで EURUSD を同じ方向に持つポートフォリオだ。口座 P/L ではなく、銘柄ごとのネット建玉が見えないと、業者はイベント一日で死ぬ。

チャレンジ側を多数回していると、この相関は体感できる。同じ時間帯、同じ通貨、同じ損切幅。業者が「多様性のあるトレーダーコミュニティ」と言っていても、ルールが同じならポジションは寄る。

では、自分でやるか

机の上では、やるならこうなる。

  1. 最初からライブ資金を謳わない。 チャレンジ専用と割り切り、シミュと実口座の言葉を混ぜない。
  2. 出金を先に設計する。 試験料の着金より、合格後 30 日・90 日のキャッシュを先に置く。Hertzberg の準備金の桁を、下限として見る。
  3. 評価エンジンと口座グループを、ダッシュボードより先に買う。 UI は後でよい。
  4. ルールは短く、公開し、動かさない。 合格後に規約を厚くする会社を、こちら側では捨てている。自分側でそれをやれば、同じ理由で捨てられる。
  5. 日本向けに売るなら、海外ガイドをそのまま使わない。

そのうえで、海外英語圏を相手にするなら、今の自分はやらない。理由は単純で、競争が広告と出金信頼の消耗戦になっており、私の優位は「ルールを守って試験を回す側」にあるからだ。

市場の厚みは違う。急所は同じ 海外英語圏 広告と出金の消耗戦 プレイヤー過多 いまの自分はやらない 日本市場 まだ日が浅い 日本語 · 円 · サポートの空白 チャンスはあるかもしれない 空白を埋めることと、来月も出金できる会社を作ることは、別の仕事だ。
海外は消耗戦。日本はまだ薄い。空白はある。急所は、日本語にしても消えない。

ただ、日本市場だけ切り出すと、話は少し変わる。海外に比べてまだ日が浅い。日本語で、円決済で、サポートが届くファームは少なく、認知も薄い。空白がある、という意味では、チャンスはあるかもしれない。

が、浅い市場は、決済・規制・信頼のインフラも浅い。同じ急所——出金と相関リスク——は、日本語にした瞬間に消えない。空白を埋めることと、来月も出金できる会社を作ることは、別の仕事だ。

箱は、お金を出せば週単位で並ぶ。出金とリスクの裏帳簿は、並ばない。設立を考えるなら、まずそこを見ればいい。

出典

← ブログ一覧