マーチンゲール法——負けたらロットを倍にする、次に勝てば全損失を回収できる。18 世紀フランスのカジノ理論が起源らしい。理屈だけ聞くと「そりゃそうだ」と思えるし、バックテストでもきれいな右肩上がりが出る。でもプロップファームでは、ほぼ例外なく禁止されている。
なんでだろう、と少し調べて考えたことを書いておく。
表面的な理由:DD 上限と相性が最悪
プロップファームのチャレンジには最大ドローダウンがある。6% とか 10% とか、口座が沈んでいい深さに蓋がしてある。
マーチンゲールは、連敗するたびにポジションサイズが指数関数的に膨らむ。5 連敗で元の 32 倍、8 連敗で 256 倍。勝率 60% でも、十分な取引数を重ねれば 5〜8 連敗は統計的にほぼ確定で来る。
つまり DD 上限が 6% の口座でマーチンゲールを回すと、いつか必ず床に当たる。「いつか」が試験中に来るか Funded 後に来るかだけの違いで、来ること自体は確実。これだけでも禁止する理由としては十分だと思う。
もう少し深い話:試験構造のハック
ここがちょっと面白いなと思ったところ。
マーチンゲールは「固定ターゲット+固定 DD」という試験構造と、構造的に噛み合ってしまう。10% の利益目標を、運良く連勝で通過できる。エッジがなくても、たまたま勝ちが先に来れば合格してしまう。
ファーム側からすると、マーチンゲールで合格した人は「市場に対するエッジの証明」を通過していない。試験のフレームを攻略しただけだ。で、その人が Funded 口座に乗ったあと、遅かれ早かれ来る連敗で口座ごと飛ぶ——これがファームにとって一番困るシナリオ。
禁止の理由は「攻撃的だから」ではない。「評価構造そのものをバイパスするから」だと考えると、筋が通る。
B-Book の裏事情
もうひとつ、あまり表で語られない話がある。
多くのプロップファームは B-Book モデルで動いている。トレーダーの注文を市場に流さず、ファーム自身がカウンターパーティになる仕組みだ。トレーダーが負ければファームの収入、トレーダーが勝てばファームが払う。
この構造でマーチンゲールを許可すると何が起きるか。トレーダーが連勝している間はファームが延々と負け続け、ポジションサイズは倍々で膨らんでいく。ファームはそのリスクをヘッジできない——マーチンゲールの次のポジションサイズが事前に読めないし、エントリータイミングも「前のトレードが負けたとき」という内部イベントだから、外部でミラーしようがない。
「ヘッジ不能なテールリスク」。これがファームのバランスシートに乗るのを嫌がるのは、まあ当然だよなと思う。
Grid も同じ話
グリッド戦略(一定間隔でポジションを積み増す)もだいたい同じロジックで禁止されている。相場がレンジなら小さく利確を繰り返すが、一方向に走ったときにポジション数が際限なく膨らむ。DD 上限のある口座と、相性が根本的に悪い。
じゃあなぜ「許可」するファームもあるのか
一部のファームはマーチンゲールを明示的に許可している。これは推測だけど、理由は二つありそうだ。
ひとつは、純粋にチャレンジ料金のビジネスモデルの話。マーチンゲールを使う人は高確率で失格する——つまりチャレンジ料金を何度も払ってくれる。禁止するよりそのまま通した方が売上が立つ。冷たいけど、ビジネスとしてはそういう計算もあり得る。
もうひとつは、DD 上限そのものがガードレールとして機能しているから、戦略を個別に禁止する必要がないという設計思想。「好きにやれ、でも 6% 沈んだら終わり」とルールをシンプルに保つ。こっちの方が好感は持てる。
自分のスタンス
正直、マーチンゲールを使おうと思ったことがない。自分の感覚としては、ナンピンの延長にある考え方で、「負けたあとにサイズを上げる」という発想自体が体に合わない。負けたときこそサイズを落とすか休む方が、精神的に長くもつ。
ただ、管理された DCA(あらかじめ計画してスケールインする)とマーチンゲールは別物だとも思う。「計画的にサイズを増やす」と「負けたから倍にする」は、見た目は似ていても意図が違う。ファームのリスクチームもその区別はしているらしい——DCA を許可するファームでも、純粋なマーチンゲール(負けのあとに感情的に倍賭け)は禁止するところが多い。
まとめると
マーチンゲールが禁止されている理由は、要するにこの三つに集約できると思う。
- DD 上限を構造的に破壊する — 指数関数的なサイズ増加と固定 DD フロアは共存できない
- 試験のフレームをバイパスする — エッジなしで合格できてしまう可能性がある
- B-Book で飲めないリスクが乗る — ファーム側がヘッジ不能
「禁止されてるから使わない」でもいいんだけど、理由を理解しておくと、他のルール(ニュース制限、口座間ヘッジ禁止、Consistency ルール)がなぜ存在するのかも見えてくる。全部、「ファームのリスクモデルが壊れるパターンを潰す」という一本の線で繋がっている。
ルールは嫌がらせではない。向こうも商売を続けたいだけだ。